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  • AI Japan中核会員からの発信⑧
    脳に学ぶ情報の量から質への転換

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 現在COVID-19のために世界はひどい状態になっています。COVID-19のような災害は今後も覚悟しなければいけません。そこでCOVID-19後は、物理的時空間の制約の無いサイバー世界が期待されています。

 近年5G、B5G、AI、VX、アバターなどITは飛躍的に進展しており、これも現実のものとなりつつあります。しかし、現在のITは大きな課題を抱えています。それは、情報量の爆発的な増大です。今世界の情報量は年約30%の割合で増大しています。このまま増大が続くと10年後には10数倍に増加することになります。これは少なくとも2つの深刻な問題につながります。一つは、消費電力の増大です。もし、IT機器の省エネ化が図られなければ、消費電力も同じ割合で増加し、現在ITが消費している電力は総発電力量の10%くらいですから、10年後には現在の総発電力量の150%をITだけが消費するというとんでもないことなります。低消費電力半導体、量子コンピュータ、ソフトの開発などITの省エネ化が進められていますが、情報量の急速な増大に対応するのはかなり難しい状況です。もう一つの深刻な課題は、脳への負担です。大量の情報を高速に送っても、人間の脳は負担に感じるばかりで、効率のよい情報の授受ができているとは限りません。情報の量や伝達速度だけでなく、その質を問う必要があります。

 情報は脳が発して、脳が受け取るという原点に戻って考える必要があります。私たちはこれを目的にして、ヒト脳活動から情報を読み解く研究を進めています。具体的には、五感、身体、メンタルなど様々な情報が脳に入力したときの脳活動をfMRI(磁気共鳴機能画像法)、MEG(脳磁図)、EEG(頭皮脳波)、ECoG(皮質脳波)などを使ってマルチモーダルに計測します。そして、脳活動の大規模データベースを構築し、様々な入力情報が脳活動にどのようにエンコードされるかを求めます。これをベースにエンコードモデルを構築し、このエンコードモデルから、脳が入力情報をどのように捉え、外の世界にどのように働きかけようとするのかを読み解くのです。現在、画像知覚、意味内容知覚、情動知覚など知覚情報に加え、記憶、常識、予測、意思決定などに関する認知情報の解読を進めています。このように、無意識下にある情報も含めて脳情報を解読することによって、脳が本当に知らせたい、そして知りたい情報とは何かを知ることによって、脳に心地よい情報となにかを追求しています。

 脳のキャパシティーは限られています。適度な量の質の良い情報が、脳に心地よいと思います。このように、脳に心地よい適度な量の質の良い情報がやりとりされる情報社会を目指せば、情報量の爆発的増大によるエネルギー問題や脳に負担をかける問題は解決するでしょう。

2022年3月7日
国立研究開発法人 情報通信研究機構
脳情報通信融合研究センター 研究センター長
柳田 敏雄

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