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  • AI Japan中核会員からの発信④ 生物ゆらぎに学ぶ省エネAI

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 2016年アルファGoが囲碁のトッププレイヤー、季世ドルに勝ったことが大きな話題になりました。そして、こんどこそAIは本物だと印象づけ、実際AIが日常の生活に深く入り込み、5GなどICTと相まって社会を変革しようとしています。これはこれで便利で豊な社会づくりに貢献すると期待されます。しかし、課題もあります。一つはエネルギーの問題です。初期のアルファGoが使ったエネルギーは20万ワットと言われています(後に囲碁に機能を特化させ数キロワットまで落としましたが)。AIを含むICTが扱う情報量は年30%の率で上昇しています。このまま上昇すると、消費電力も比例して増加しますから、10年後には現在の総発電力量の150%をICTが消費することになります(JST、LCS)。経済とリンクしているのでそこまではいかない(経産省グリーンITイニシアティブ)でしょうが、深刻な問題であることには違いありません。私たちは、生物の原理に学んでこの問題を解決できないか挑戦してきました。脳の消費エネルギーは、我々がものを一生懸命考えている時の脳内温度の上昇から見積もると、せいぜい1ワットでした(代謝などすべてを含めても20ワット)。脳は多種多様な情報処理をしているにもかかわらず、AIに比べてけた違いに省エネといえます。コロナワクチンでも話題になっていますが、ヒト細胞は、細胞外の情報(刺激)に応じて約3万の遺伝子の組み合わせを制御して実に巧妙に働いています。この複雑な情報処理に使っているエネルギーは、なんと1兆分の数ワットです。生物にはどのような省エネ原理が働いているのでしょうか?そのヒントを私たちは筋肉で働く分子モータの研究から得ました。生物分子モータは熱ゆらぎ(ノイズ)を遮断せず、うまく利用し省エネで柔軟に働いていたのです。人工機械とは根本的に異なるしくみです。熱ゆらぎを利用する仕組みはその後細胞のイオンポンプ、レセプター、遺伝子発現など多くの生物分子素子で観察されています。さらに、ヒト脳のひらめきにおいてもゆらぎを使って限られた情報をヒントに回答を導き出していることを見出しました。ゆらぎは、組み合わせ爆発が起こるような複雑な状況下でも、ほどほどの答えを素早く探索するのに有効であるようです。このゆらぎを利用する仕組みを数式化して、複雑なインターネット網のルーティング制御に応用しました。結果、計算量をけた違いに落とし、突然の変動に対するロバストネスも数倍あがることがシミュレーションで分かりました。生物ゆらぎ原理を応用した複雑システムの制御に関する研究をまとめた本が出版されますので参考にしてください(M. Murata & K. Leibnitz eds, Fluctuation-Induced Network Control and Learning;Applying the Yuragi-principle of Brain and Biological systems, Springer 2021)。ゆらぎで柔軟に超多自由度をリダクションする生物の仕組みを深化すれば、省エネでも期待されている量子コンピュータの開発に貴重なヒントを与えるのではないかと素人ながらに期待しています。生物ゆらぎに学ぶ省エネ技術で、GAFAやHuaweiをキャッチアップする方向性が見いだせればいいのですが。

2021年3月2日
国立研究開発法人 情報通信研究機構
脳情報通信融合研究センター 研究センター長
柳田 敏雄

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