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  • AI Japan 中核会員からの発信⑤ AIと人間の協調、共進化

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 AIRCでは、2020年秋より、「人と協調し共進化する」AIと「容易に構築できる」AIという2つのNEDOプロジェクトを実施しています。後者は、前回の投稿で述べた、日本のAI研究を支える共通基盤の構築を目指しています。

 これに対して、協調AIは、データと機械学習・深層学習が中心の現在のAI技術を超える次世代AI技術を目指します。AIの歴史は、問題解決と発見的探索、知識と推論の時代を経て、データと機械学習・深層学習の第3期AIに至る、と総括されます。先行する2つの時代は、人間知能の中核には思考があり、この思考をTuring Machine、von Neumann型計算機での系列的な計算過程として捉え、思考機械の構築を目指しました。これに対し、ビッグテータの時代を経た現在のAIは、大規模データに潜む規則性を機械学習・深層学習でとらえる認識機械に焦点を当てたと言っても良いでしょう。また、深層学習は、von Neumann型の系列的な計算原理に対して、記憶と処理を一体化した神経網による大規模な並列計算に基づきます。これに伴い、第3期AIでは、計算機科学での計算理論、論理などの離散数学に加えて、神経網の計算理論やデータ解析の数理理論が、AIの基礎理論に加わりました。
 
 このような総括は、もちろん、AI史の過度な一般化です。実際、思考機械の時代にも、画像や音声の認識という認識系の研究は活発でした。ただ、これら認識系の研究はAIの中核ではなく、周辺とされていました。それがAIの中核となったのが、第3期AIの特徴です。

 認識と思考は、一体化して知能を構成します。認識中心の第3期AIは大きな成果を上げましたが、その限界も顕在化しています。この限界の超克には、現在の成果と第1期、第2期の思考機械の研究との融合が必要です。人間の自覚的で系列的な思考は言語的・記号的なものが支えています。認識と思考をつなぐ鍵に、言語的・記号的なものがあります。我々は、協調AIの研究として、Video QAやVideoからのストーリ生成の研究、データからのテキスト生成を取り上げています。また、人間行動の観察データから人の意図を推察し、その達成を助ける、人と共同作業するロボットの実現を目指します。ここでは、人間行動の観察と認識にとどまらず、認識結果を環境やタスクに関する知識に結び付け、人の行動意図を推論し、それを助ける行動計画を立てる思考処理が必要になります。

 一方、第3期AIは、(1)von Neumann型とは大きく異なる計算原理(i.e.神経網)、(2)データから対象を把握し判断・予測・介入する機械学習、という2つの革新を情報処理技術にもたらしました。この技術革新が、知能研究としてのAIを超えて、幅広い分野に大きな影響を持ち始めています。例えば、深層学習によるタンパク質の立体構造予測(AlphaFold2、DeepMind)は、生命科学を大きく変化させるといわれています。AI技術を使った論文が、生命科学・物質科学・医学・制御理論・機械工学・金融など、他分野の一流論文誌に多数採録され始めています。

 これらの分野は、仮説・検証・理論改編、あるいは、設計・制作・改良といったサイクルを繰り返すことで、人類が築き上げてきた知の体系、思考の体系となっています。この体系は、それぞれの分野に固有な基本概念とその論理関係、数学的な定式化、分野固有の知識やノウハウをもち、シミュレーション技術などからなっています。

 協調AIのプロジェクトでは、データからのAI技術と分野固有の思考の体系とを有機的に融合することで、人類の知の体系とAIの共進化を目指しています。シミュレーション技術との融合、分野固有の知見を反映したニューラルモデル、専門家による解釈や制御を可能にする深層神経網、などの研究を推進しています。


国立研究開発法人 産業技術総合研究所
フェロー
情報・人間工学領域 人工知能研究センター 研究センター長
辻井 潤一

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